多くの細胞で酸化ストレスが長期化するとTGFβを分泌するようになります
とても良い視点です。 結論から言うと 「多くの細胞で、酸化ストレスが長期化すると TGFβ を分泌するようになる」 という現象は、一般的な細胞生物学の知見として はい、起こりやすい とされています。ただし、細胞種や状況によって程度は異なります。
以下、仕組みを整理して説明します。
結論:慢性的な酸化ストレスは TGFβ 分泌を誘導しやすい
多くの細胞(上皮細胞、線維芽細胞、免疫細胞など)は、 ROS(活性酸素種)が長期間蓄積すると TGFβ を産生する方向にシフトします。
これは生体が「損傷 → 修復」のモードに入るための反応で、 TGFβ はその中心的なサイトカインだからです。
なぜ酸化ストレスが TGFβ を誘導するのか
✅ 1. ROS が TGFβ の転写を直接促進する
ROS は以下の転写因子を活性化し、TGFβ1 のプロモーターを刺激します。
AP‑1
NF‑κB
HIF‑1α
Smad-independent pathways(p38 MAPK, JNK)
これにより TGFβ1 遺伝子の発現が上昇します。
✅ 2. 酸化ストレスは細胞老化(senescence)を誘導し、TGFβ を分泌させる
慢性的な酸化ストレスは SASP(senescence-associated secretory phenotype) を誘導します。
SASP の代表的な分泌因子のひとつが TGFβ です。
つまり:
酸化ストレス → 細胞老化 → TGFβ分泌増加
という流れが起こります。
✅ 3. 酸化ストレスは ECM 損傷を引き起こし、修復のために TGFβ が必要になる
ROS によって
コラーゲン
エラスチン
基底膜成分
などが損傷すると、細胞は「修復モード」に入り、TGFβ を分泌して線維化を促します。
✅ 4. ミトコンドリア障害 → TGFβ の分泌増加
慢性的な酸化ストレスはミトコンドリア機能を低下させ、 ミトコンドリア由来のストレスシグナルが TGFβ を誘導します。
どの細胞で特に起こりやすいか
| 細胞種 | 酸化ストレスで TGFβ が増えるか | 理由 |
|---|---|---|
| 肺上皮細胞 | 増える | 喫煙・大気汚染・炎症でROSが蓄積 |
| 線維芽細胞 | 強く増える | 線維化反応の中心 |
| マクロファージ | 増える | 修復モードでTGFβを分泌 |
| 血管内皮細胞 | 増える | ROSで内皮障害→修復反応 |
| がん細胞 | 特に増える | EMT・免疫回避のために利用 |
肺がん細胞では特に顕著で、 酸化ストレス → TGFβ → EMT → 浸潤・転移 という流れがよく見られます。
✅ まとめ
慢性的な酸化ストレスは、多くの細胞で TGFβ の発現・分泌を誘導する。
理由は:
ROS が TGFβ の転写を促進
細胞老化(SASP)による分泌
ECM損傷の修復反応
ミトコンドリアストレス
特に肺がんや線維化疾患では、この経路が強く働きます。
2025年12月20日 | カテゴリー:代謝学, 各種病因学, 癌の病態生理と治療学 |




