足場非依存性増殖の分子メカニズム
1. インテグリンシグナルの回避
正常細胞は基質(ECM)に接着し、インテグリンを介して生存シグナル(FAK, Src, PI3K/Akt経路)を受け取ります。
接着が失われると「アノイキス(anoikis)」と呼ばれる細胞死が誘導されます。
がん細胞はインテグリン依存性を回避し、浮遊状態でもAktやMAPK経路を活性化できるため、死を免れます。
2. アポトーシス回避
正常細胞は足場を失うとカスパーゼ経路が活性化し、アポトーシスに入ります。
がん細胞は Bcl-2ファミリーの発現増加 や p53経路の不活化 により、アポトーシスを抑制。
これにより浮遊状態でも生存・増殖可能。
3. 細胞周期制御の異常
正常細胞は足場依存的にG1チェックポイントで停止。
がん細胞は Cyclin D/Eの過剰発現 や Rb経路の破綻 により、足場がなくても細胞周期を進行させる。
4. 代謝の適応
浮遊状態ではグルコースや酸素供給が不安定。
がん細胞は Warburg効果(好気的解糖) を強化し、低酸素・低栄養環境でも増殖可能。
5. EMT(上皮間葉転換)との関連
EMTを起こしたがん細胞は接着依存性が低下し、浮遊状態でも生存可能。
転移能と足場非依存性増殖は密接に関連。
✅ まとめ
足場非依存性増殖=アノイキス回避能力
インテグリンシグナルの独立化、アポトーシス抑制、細胞周期異常、代謝適応、EMTが主要因。
この性質を持つ細胞は 軟寒天培養でのコロニー形成能 を示し、in vivoで腫瘍形成・転移能が高い。
2025年11月13日 | カテゴリー:癌の病態生理と治療学 |




