足場依存性増殖がん細胞
一般に「がん細胞」は足場非依存性増殖(anchorage-independent growth)を獲得することが特徴とされます。一方で、造血系細胞など一部はもともと足場依存性が弱く、逆に正常上皮系や線維芽細胞由来のがんでは足場依存性が強く残る場合も報告されています。
足場依存性/非依存性増殖の報告例
足場依存性が残る(足場がないと増殖しにくい)
正常細胞由来の多くの上皮系がん 例:乳腺上皮由来がん細胞、前立腺がん細胞などは、完全な足場非依存性を獲得していない株もある。
ヒト線維芽細胞由来のがん化モデル H-Ras導入では足場非依存性が弱く、Fra-1など追加因子が必要とされる。
一部の腎がん細胞株 腎上皮由来では足場依存性が比較的強く、軟寒天培養でコロニー形成しにくいとされる。
足場非依存性増殖が確認されている(典型的ながん細胞の性質)
造血系腫瘍(白血病、リンパ腫) 造血細胞はもともと浮遊状態で増殖可能なため、足場非依存性が自然に成立している。
肺がん細胞株(例:A549) 軟寒天培養でコロニー形成能が高い。
大腸がん細胞株(例:HT29, HCT116) 足場非依存性増殖が報告されている。
膵がん細胞株(例:PANC-1) 軟寒天培養で顕著な増殖。
乳がん細胞株(例:MCF-7, MDA-MB-231) 特にMDA-MB-231は強い足場非依存性を示す。
神経芽腫細胞株 浮遊状態でも増殖可能。
肉腫系細胞株(例:HT1080線維肉腫) 非依存性増殖が強い。
まとめ
足場依存性が残るがん:上皮系がんの一部(乳腺、前立腺、腎など)、ヒト線維芽細胞由来モデル。
足場非依存性が強いがん:造血系腫瘍、肺がん、大腸がん、膵がん、乳がん(特にMDA-MB-231)、神経芽腫、肉腫。
一般的傾向:固形腫瘍由来細胞は「足場非依存性」を獲得することが腫瘍形成・転移の鍵とされるが、完全に非依存的ではなく、株や遺伝子変異によって差がある。
📊 がん細胞株と足場依存性の比較
| がん種・細胞株 | 足場依存性増殖 | 足場非依存性増殖 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 乳がん MCF-7 | 比較的依存性あり | 弱いコロニー形成 | ホルモン依存性が残る株 |
| 乳がん MDA-MB-231 | 依存性低い | 強い非依存性増殖 | 高浸潤性トリプルネガティブ株 |
| 肺がん A549 | 部分的依存性 | 軟寒天培養でコロニー形成 | 上皮系でも非依存性獲得 |
| 大腸がん HCT116 / HT29 | 依存性低い | 明確な非依存性増殖 | 腫瘍形成能が高い |
| 膵がん PANC-1 | 依存性低い | 強い非依存性増殖 | 浮遊状態でも増殖可能 |
| 前立腺がん LNCaP | 足場依存性あり | 非依存性は弱い | アンドロゲン依存性が残る |
| 腎がん 786-O | 足場依存性強め | 非依存性は限定的 | 軟寒天で増殖しにくい |
| 神経芽腫 SH-SY5Y | 依存性低い | 浮遊状態でも増殖 | 神経系腫瘍は非依存性が強い |
| 白血病 K562 | 依存性なし | 自然に非依存性 | 造血系はもともと浮遊増殖 |
| リンパ腫 Raji | 依存性なし | 非依存性強い | B細胞系腫瘍 |
| 線維肉腫 HT1080 | 依存性低い | 非依存性強い | 軟寒天で顕著なコロニー形成 |
✅ まとめ
足場依存性が残るがん:乳がんMCF-7、前立腺がんLNCaP、腎がん786-Oなど。
足場非依存性が強いがん:MDA-MB-231、肺がんA549、大腸がんHCT116、膵がんPANC-1、造血系腫瘍(白血病・リンパ腫)、肉腫系。
一般的傾向:造血系や肉腫系は自然に非依存性。上皮系は株によって依存性の残存度が異なる。
2025年11月13日 | カテゴリー:癌の病態生理と治療学 |




