尿管狭窄
尿管狭窄のガイドラインがあり
抜粋を載せます
1. 疾患の背景
尿道狭窄症は尿道の瘢痕化による狭窄で、排尿障害やQOL低下を引き起こす。
原因は 医原性(カテーテル、TURPなど) が最多。外傷性、炎症性(硬化性苔癬など)、感染性、特発性もある。
男性に多く、女性は稀。
2. 診断
症状:尿線の減弱、排尿困難、残尿感。
検査:尿流測定、残尿測定、尿道造影、尿道鏡。
前立腺肥大症など他疾患との鑑別が重要。
3. 治療方針の変化
従来:尿道拡張術や内尿道切開術が主流。再発率が高く、長期成績は不良。
現在:尿道形成術(開放手術)が標準。成功率は 85〜95%以上 と高く、根治が期待できる。
内視鏡治療は「初回の短い狭窄」に限定的に有効。再発後の繰り返し使用は推奨されない。
4. 推奨事項(CQ)
初回治療:短い狭窄なら内尿道切開を検討可。ただし再発時は尿道形成術へ。
長い狭窄・複雑例:尿道形成術を第一選択。口腔粘膜移植などが有効。
再発例:繰り返しの拡張・切開は避け、形成術を行う。
小児例:先天性狭窄は稀だが、必要に応じて形成術。
5. 治療成績と予後
尿道形成術は経験豊富な施設で行えば高成功率。
再発率は低く、長期的なQOL改善が期待できる。
内視鏡治療は再発率が高く、長期的には不利。
6. 今後の課題
高齢化に伴う医原性狭窄の増加。
専門医・専門施設での形成術普及が必要。
エビデンス不足のため、さらなる臨床研究が求められる。
📌 まとめ 尿道狭窄症の診療は「拡張・切開から形成術へ」というパラダイムシフトが起きています。ガイドラインは、再発例や長い狭窄では形成術を第一選択とし、患者のQOL改善と根治を目指す方向性を明確に示しています。
尿道狭窄症に関連する用語は2010年の国際泌尿器疾患会議(International Consul
tation of Urological Diseases:ICUD)で編集された SIU/ICUD Consultation1)(いわ
ゆるSIUガイドライン)で統一化され,その後に編集されたAUAガイドラインや
EAUガイドラインでもおおむね踏襲されている2〜5)。したがって,本ガイドライン
も既存のガイドラインに準じて用語を統一する。
1.“Urethral stricture”と“Urethral stenosis”
日本語では狭窄の部位によらず “尿道狭窄” という表記で問題ないが,英語表記の
場合 “urethral stricture” と “urethral stenosis “を厳密に使い分ける必要がある。
“Urethral stricture “は海綿体の線維化に伴い尿道内腔が狭窄あるいは閉塞するとい
う病態を意味するため,尿道海綿体が存在する前部尿道の狭窄においてのみ使用す
る1)。尿道海綿体に覆われていない後部尿道の狭窄は“urethral stenosis”や“urethral
obstruction” と表記する1)。
2.“膀胱頸部狭窄”
膀胱頸部狭窄のほとんどは医原性であり,前立腺肥大症や前立腺癌の治療に関連す
る例が大半である(BQ3(4), 6.,p52参照)。経尿道的前立腺手術後の狭窄を膀胱頸
部狭窄(bladder neck stenosis:BNS),前立腺癌に対する根治的前立腺全摘後の狭
窄を膀胱尿道吻合部狭窄(vesico-urethral anastomotic stenosis:VUAS)と表記する 1)。
3.“骨盤骨折に伴う尿道外傷”
骨盤骨折に伴う尿道外傷は以前pelvic fracture urethral distraction defect (PFUDD)
と表記されていたが,全例が完全断裂しているわけでなく,部分断裂も多く存在する
ことから,pelvic fracture urethral injury(PFUI)と表記することになった 1)。
PFUIに続発する狭窄は断裂した尿道の間隙が狭窄しているように見えるだけで,も
ともと存在していた尿道内腔が狭窄しているわけではない。したがって,英語では
“urethral stenosis” や “urethral obstruction” ではなく,“urethral gap” と表記する。
4.“硬化性苔癬”と“乾燥性閉塞性亀頭炎”
角化性変化を伴う外陰部の白色病変が特徴的な硬化性苔癬(Lichen Sclerosis:LS)
は,亀頭部から外尿道口,前部尿道へ病変が波及して難治性の前部尿道狭窄症の原因
8
となる。泌尿器科領域で古典的に使用されてきた乾燥性閉塞性亀頭炎(Balanitis
Xerotica Obliterans:BXO)は LS の一病変を表すに過ぎないことから,SIUガイド
ラインではBXOではなくLSと表記することを推奨している1)。日本皮膚科学会ガ
イドラインも硬化性苔癬の表記を推奨している6)。
5.“Penile urethra”と“Pendulous urethra”
SIU ガイドラインにおいて,pendulous urethraではなくpenile urethraと表記さ
れたことをうけ1),泌尿器外傷診療ガイドラインでは “振子部尿道” ではなく,“陰茎
部尿道” と表記した7)。本ガイドラインでも同様に陰茎部尿道と表記する。
6.“フラップ”と“グラフト”
“フラップ” とは,代用組織を固有の血液供給路(血管茎)を保ったまま採取し,
狭窄部に移植する方法である。一方,“グラフト” とは採取部位(ドナーサイト)か
ら切り離された組織を狭窄部に移植する方法である。移植後48時間は移植先の組織
(グラフト床)からの浸出液のみで生存し,その後に血管の再開通が起こる8)。グラ
フトが生着するためには血流が豊富な移植先(グラフト床)に密着させることが必要
である。尿道形成術においては口腔粘膜や陰茎包皮などを代用組織として用いること
が多く,前者は “グラフト” として,後者は “グラフト” あるいは “フラップ” とし
て利用される(CQ8,p99参照)。
7.“Reconstructive urologist”
泌尿器科領域の再建手術を専門とする泌尿器科医を意味する。Reconstructive
urology は,海外学会では既に確立した泌尿器科のサブスペシャルティーであり,泌
尿器再建外科学会(Society of Genitourinary Reconstructive Surgeons:GURS,htt
ps://societygurs.org/home)は reconstructive urology の代表的な国際学会である。
8.尿道狭窄症治療の“成功”
尿道狭窄症における治療の有効性は“成功”の定義によって大きく異なる(BQ4(1),
p68 参照)。本ガイドラインにおいて引用した論文の成功率は,それぞれの論文で使
用された成功の定義による数字をそのまま用いている
)尿道狭窄症の原因疾患と頻度
要約
・ 罹患率は圧倒的に男性の方が高い。原因は特発性,医原性,外傷性,感染性,
硬化性苔癬(LS)などがある。
・ 原因は地域差が大きい。先進国では医原性が多く,途上国では外傷性やLS
による狭窄が多い。
・ 部位別には前部尿道が多く,特に球部尿道が約半数を占める。
・ 年齢別には若年者では外傷性や尿道下裂に関連した例が多く,高齢者では医
原性が多い。
1.尿道狭窄症の病態
尿道粘膜や尿道海綿体の線維化に伴う尿道内腔の狭小化が尿道狭窄症の本態であ
る。発症には尿道海綿体への尿溢流が大きく関与しており,溢流が強いほど尿道海綿
体の線維化が悪化する傾向がある。正常な尿道粘膜から狭窄へ至る最初の病理学的変
化は,尿道上皮の扁平上皮化生である11)。扁平上皮化生に至った尿道粘膜は脆弱で
排尿圧により容易に裂傷をきたし,局所的な尿溢流の要因となる。尿溢流は周囲の線
維化を起こし,結果的に尿道内腔が狭小化する。狭窄がある状態で治療せずに排尿を
続けると,高圧排尿により尿溢流が繰り返され,狭窄がさらに中枢側へ進展する12)。
2.尿道狭窄症の罹患率
尿道狭窄症は比較的ポピュラーな疾患であり,その要因は地理的に異なる。尿道狭
窄症の正確な罹患率はいまだ分かっておらず,本邦においても不明である。米国の退
役軍人病院での1998年,2003年のデータでは,男性10万人あたりそれぞれ274人
(0.3%),193 人(0.2%)の尿道狭窄症を認めた。罹患率は55歳を境に急激に上昇し,
65 歳では10万人あたり627人と報告されている13)。女性については,米国の複数の
公的データベースに基づく推定によると,医療機関への受診10万件のうち186件
(0.19%)が尿道狭窄症を原因としていた14)。しかし,これらの中には尿道狭窄症と
確定診断がついていないまま外来で尿道拡張を受けていた例が相当数含まれており,
実際の罹患率はかなり低いと推定される。下部尿路症状を呈する女性のうち膀胱出口
部閉塞は2.7〜8%に過ぎず,そのうち尿道狭窄症が確認されるのは4〜13%程度と
報告されている15,16)。したがって,下部尿路症状を有する女性患者における尿道狭
窄症の頻度は0.1〜1%に過ぎない。なお,65歳以上では,頻度が7倍となると報告
されているため,高齢女性においては尿道狭窄症を慎重に鑑別する必要がある14)。
3.尿道狭窄症の原因と部位
BQ
1.用語と疫学
尿道狭窄症の原因は外傷性,医原性,感染性,炎症性,特発性(原因不明),LSに
11
伴うものに分けられる。社会環境の整備に伴い交通事故や労働災害などが減少したこ
と,医療へのアクセスが増加したことから,先進国では外傷性が減少しており,相対
的に医原性が増加している17)。2000年から2011年にイタリア,アメリカ,インドの
施設で尿道形成術を施行した2,589例のデータでは,イタリア・アメリカとインドの
2 群間での原因の違いが示されている17)。両群とも特発性(原因不明)が最多であっ
たが(それぞれ41.3%,23.6%),イタリア・アメリカでは医原性(35.0%),外傷性(15.8%)
と続いたのに対し,インドでは外傷性(36.1%),LS(21.5%)の順に頻度が高かった。
イタリアの単一施設で加療された2,302例の要因は特発性(37.8%),尿道下裂関連
(17.1%),外傷性(13.8%),尿道カテーテル関連(10.5%),経尿道的治療(10.3%),
LS(6.8%),前立腺全摘後(2.2%),感染(0.9%),放射線治療(0.3%),先天性(0.3%)
と報告され,医原性が多いと報告された18)。1990年代のアフリカでは尿道炎が最大
の原因となっていたが,抗菌薬の適切な使用によって減少した結果,2000年以降は
医原性が多くを占めるようになっている19,20)。一方,近年の報告でもイエメンのよ
うに外傷が最大の原因となっている地域もある21)。このように,尿道狭窄症の原因
は社会的,地域的な背景により大きく異なる。本邦から尿道狭窄症の原因を調査した
文献はみられなかったが,先進諸国と同様に特発性や医原性が多いと推測される。
狭窄部位としては球部尿道が約半数(46.9〜65.2%)を占める22〜24)。Steinらによ
るイタリア・アメリカとインドの比較でも両群ともに球部尿道が最も多かったが
(55.7%/42.3%),イタリア・アメリカでは陰茎部(27.0%)が,インドでは後部尿道
(34.4%)が2番目に多かった17)。これは原因により好発部位が異なるためと考えら
れる。アメリカの10施設で尿道形成術を施行された2,152例のデータでは,球部尿
道では特発性(67%)についで外傷性(17%),医原性(13%)が多いのに対し,陰
茎部尿道では特発性(34%),医原性(23%),感染性/LS(20%)の順に多かった22)。
Lumenらの報告では,球部尿道では特発性(48.1%),経尿道的治療後(24.8%),尿
道カテーテル関連(10.1%)の順に多く,陰茎部尿道では尿道下裂に関連した狭窄
(28.6%)が主要な原因となっていた23)。
年齢によっても原因の分布が異なる。若年者には尿道下裂に関連した狭窄や外傷性
狭窄が多く,高齢者では経尿道的手術による医原性狭窄が多い23〜25)。
1)外傷性狭窄
尿道外傷の多くは鈍的外傷で,騎乗型外傷とPFUIが代表的である7,26,27)。狭窄
は受傷部位に一致するため,騎乗型外傷では前部尿道(主に球部尿道)28),PFUIで
は後部尿道(主に球部尿道と膜様部尿道の境界部)に発生する29)。患者年齢は20
50 歳代と比較的若い28,30〜34)。受傷後しばらく時間が経過してから狭窄を発症する例
もあり34),原因となった外傷自体を認識していないこともあるため,注意深く病歴
を聴取する必要がある。
12
2)医原性狭窄
先進国では頻度の高い要因の1つである23,24)。尿道下裂関連の狭窄,経尿道的手
術後の狭窄,前立腺全摘後の膀胱尿道吻合部狭窄(VUAS),放射線治療後の狭窄な
どが含まれるが,それぞれが異なる特性を持つ。
①尿道下裂術後の形成部狭窄
45 歳以下の男性に発生する医原性狭窄の中で最も頻度が高い23)。イタリアのハイ
ボリュームセンターで10年間に治療された尿道狭窄症のうち,12.2%が尿道下裂手
術に関連していたと報告され24),小児に限定すると尿道狭窄症全体の35%を占める
という報告もある25)。尿道下裂術後の形成部狭窄は晩期合併症であるがゆえに正確
な発生率を知ることが困難であるが,オランダの施設で尿道下裂修復術を受けた
2,053 例の患者のうち,10年以上経過し,合併症を調査し得た126名中15人(11.9%)
が外尿道口狭窄,10人(7.9%)が前部尿道狭窄症を発生していた35)。尿道下裂の程
度や術式にもよるが,狭窄の発症率は1.3〜20%と報告される36)。尿道狭窄症以外
に尿道皮膚瘻,LS,陰茎屈曲などを合併していることが多い37)。狭窄のパターンと
しては,形成部尿道全長の狭窄,形成部尿道と固有尿道の接合部狭窄などがあるが,
しばしば未治療例に狭窄がみられることもある38)。
②経尿道的処置後の狭窄
ⅰ)尿道カテーテルに関連する狭窄
尿道狭窄症全体の11.2〜16.3%を占める23,24)。尿道カテーテル挿入時の偽尿道形
成や尿道内でのバルーン拡張,自己導尿カテーテルによる損傷などが要因として報告
されているが7,39〜41),明らかな尿道損傷がなくても尿道カテーテルは尿道内から尿
道海綿体を圧迫して尿道粘膜の虚血の要因となるだけでなく,炎症や感染の原因とな
り尿道狭窄症を起こし得る1)。尿道カテーテル留置に伴う合併症に関するメタアナリ
シスでは,短期間の留置でさえも3.4%にびらんや尿道狭窄症が発症していた42)。留
置するカテーテルサイズや材質と狭窄の発症率には密接な関連があり,必要以上に太
いカテーテルやラテックス製のカテーテルの使用は狭窄の原因になり得る4,43,44)。
EAUガイドラインは,尿道カテーテルによる尿道狭窄症を回避するために,①不要
な尿道カテーテル留置を極力避けること,②尿のドレナージ目的だけならば18Fr以
上のサイズを使用しないこと,③シリコンコーティングしていないラテックス製のカ
テーテルを使用しないことを推奨している4)。
ⅱ)経尿道的手術に関連する狭窄
経尿道的前立腺肥大症手術後の報告が多く,外尿道口・舟状窩,陰茎陰囊境界部,
近位球部,膀胱頸部が好発部位となっている45〜47)。1979年以降に行われたTURP
についての大規模研究やRCTなどをまとめた報告によると,BNSは0.3〜9.2%,尿
道狭窄症は2.2〜9.8%の頻度で発生していた48)。モノポーラ―TURPとバイポーラ
TURP,Gyrus plasmakinetic bipolar resection,生理食塩水を還流液とした TURP
BQ
1.用語と疫学
13
(TURis),HoLEP,PVPのいずれも狭窄の発生率はほぼ同じで差を認めなかった49)。
尿道狭窄症のリスク因子として,単位手術時間あたりの腺腫切除量が少ないこと,術
中の尿道粘膜損傷,術後の持続的な感染尿などが報告されている50,51)。また,BNS
は腺腫が小さい例でリスクが高いと報告されている47,48,51)。外尿道口・舟状窩狭窄
は内視鏡のサイズと外尿道口の内腔径の不均衡が原因の1つと考えられており48),
細径の内視鏡を用いることでリスクを低下できる可能性がある46)。尿道へのモノポー
ラ―電流のリークや内視鏡と尿道の摩擦も原因と考えられており,十分量の潤滑剤を
用いることで予防できる可能性がある48)。EAUガイドラインは経尿道的前立腺手術
時に狭窄予防として尿道を切開,拡張することは意味がなく,かえって狭窄の発症を
促進するので行わないことを推奨している4)。
③前立腺癌に対する根治的前立腺全摘後の膀胱尿道吻合部狭窄(VUAS)
大半の狭窄は前立腺全摘術後2年以内に発症する。イギリスの癌登録システムによ
るデータベースによると,前立腺全摘術後のVUASは開腹手術で6.9%,腹腔鏡手術
で5.7%,ロボット支援手術で3.3%に発生した52)。米国の保険システムのデータベー
スでも開腹手術はVUASの頻度が高く,ロボット支援下手術の普及により減少傾向
にある53)。
④前立腺癌に対する放射線治療やアブレーション治療
放射線性狭窄は照射後の時間とともに発症率が上昇する晩期合併症である54)。低
酸素状態にある慢性的な線維化と進行性の血管内皮の炎症が要因と考えられている。
Elliott らは CapSURE(Cancer of the Prostate Strategic Urologic Research Endeavor)
のデータベースにおける尿道狭窄症の発症率を調査し,小線源療法後で1.8%,外照
射療法後で1.7%,両者の併用で5.2%と報告した55)。前立腺癌の放射線治療と尿道狭
窄症の発生について46報の研究をまとめたメタアナリシスによると,狭窄の多くは
球部から膜様部に発生し,頻度は外照射療法と小線源療法の併用で有意に上昇してい
た(単独2.2%,併用4.9%)56)。また,HIFU(high-intensity focused ultrasound)後
の尿道狭窄症の頻度は10〜20%と放射線治療後より高く,そのほとんどは前立腺部
尿道に発生する57〜59)。
3)尿道炎
かつては淋菌性/非淋菌性尿道炎が尿道狭窄症の原因の多くを占めていたが,抗生
物質の開発や性感染症の予防意識の高まりに伴い急激に減少している19,60)。2001年か
ら2008年にベルギーの病院で尿道形成術を施行した患者のうち,尿道炎が原因となっ
た患者は3.7%のみであった23)。Steinらの報告でも尿道炎後狭窄の頻度はイタリア・
アメリカ,インドそれぞれで0.8%,1.8%と少なく,両群で有意な差はみられなかっ
た17)。尿道炎の発症から尿道狭窄症の発症までの期間は13〜21年と報告されてい
る19)。
14
4)硬化性苔癬(LS)
外陰部の皮膚に発生する炎症性疾患で,肉眼的には境界明瞭な萎縮を伴う白色硬化
性の局面を有し,組織学的には過角化,表皮萎縮,液状変性,真皮内の浮腫,リンパ
球浸潤,膠原線維の硝子様均質化がみられる6)。自己免疫疾患の一種と考えられてい
るが61),包茎などがリスク因子として知られ,環境因子も背景にあると考えられて
いる62)。圧倒的に女性に多いが,臨床的に尿道狭窄症が問題になるのはほとんどが
男性である。男性では30歳から50歳の比較的若年例が多く,包皮,冠状溝,亀頭部
が好発部位である。自覚症状は局所の白色硬化性,包皮の萎縮による包茎,勃起時の
痛みなどがみられる。亀頭部や包皮に限局した段階であれば,ステロイド外用薬や環
状切除によりコントロール可能であるが63),約20%は外尿道口から逆行性に波及す
ることで前部尿道狭窄症に進展し,外科的治療を要する。LSに関連する尿道狭窄症
は狭窄が長い難治例が多く64,65),前部尿道全長狭窄の約半数がLSに起因している24)。
4.尿道狭窄症の分類に関する試み
上記のようなさまざまな原因や罹患部位,さらに狭窄長を考慮に入れると尿道狭窄
症の病態は極めて多様である。そのため,尿道狭窄症の病態を簡潔に記載するシステ
ムが必要とされてきたが,これまで国際的に統一されたものはなかった。2015年に
Eswara らは前部尿道狭窄症の重症度を狭窄長,狭窄部位,狭窄箇所数,狭窄の要因
からスコアリングするシステム(U-score,表1)を報告し,U-scoreと尿道形成術の
複雑さに相関があることを示した66)。
表1 U-Score system(文献66より引用)
変数
狭窄長(cm)
狭窄部位
狭窄数
原因
ポイント
<2cm
2~5cm
>5cm
球部尿道
陰茎部尿道
1ヵ所
2ヵ所以上
外傷性,特発性,医原性
炎症性,尿道下裂術後の形成部狭窄
1
2
3
1
2
1
2
1
2
BQ
1.用語と疫学
15
16
さらに,AlwaalらはU-scoreが尿道形成術後の再狭窄を予測し得ることを報告し
た67)。一方,米国のアカデミアに所属するreconstructive urologistのグループであ
るTrauma and Urologic Reconstruction Network of Surgeons(TURNS)は,2020
年に詳細な前部尿道狭窄症の分類法であるLSE classificationを提唱した(表2)。こ
の分類は狭窄の長さ(Length),部位(Segment),原因(Etiology)により構成され
る。後部尿道病変の有無(p),複数病変の有無(m),閉塞の有無(x)といった小分
類も定義され,再現性に優れた簡潔な表記法といえる68)。
表2 LSE classification(文献68より引用)
L-狭窄長
1<2cm
2 2~7cm
3>7cm
S-狭窄部位
1球部尿道
1a遠位球部を含まない球部尿道の狭窄
1b遠位球部を含む球部尿道の狭窄
2陰茎部尿道
2a球部と陰茎部の両方に及ぶ狭窄(舟状窩/外尿道口に狭窄なし)
2b陰茎部尿道のみの狭窄(舟状窩/外尿道口に狭窄なし)
2c舟状窩/外尿道口の狭窄を伴う陰茎部尿道の狭窄
2d舟状窩/外尿道口に限局する狭窄
3舟状窩/外尿道口,陰茎部尿道,球部尿道に及ぶ狭窄
S-修飾因子
x閉塞がある場合に記載(例:S1ax,S2ax)
m前部尿道の離れた部位に複数の狭窄が存在し,別々の術式で治療される場合に記載
(例:Sm1a and Sm2d)
p球部尿道から後部尿道に及ぶ狭窄がある場合(例:S1ap),または後部尿道に限局し
た狭窄の場合に記載(例:Sp)
E-原因
1外的外傷(例:騎乗型尿道外傷)
2特発性/原因不明
3医原性
3a経尿道的処置による狭窄(例:TURP後に発症した狭窄)
3b尿道形成術後の再狭窄(穿通性外傷例は狭窄の続発の有無にかかわらず含む。尿道下
裂術後の形成部狭窄は除く)
3c放射線治療後の狭窄
4感染性/炎症性(例:淋菌感染後)
5尿道下裂術後の形成部狭窄
6硬化性苔癬(LS)
表3 EAUガイドライン分類(文献4より引用)
カテゴリー
説明
尿道内腔
程度
0
狭窄なし
−
1
臨床症状なし
16Fr 以上
2
軽度の狭窄
11~15Fr
−
Low
3
高度の狭窄または著明な尿勢低下
4~10F
4
ほぼ閉塞している状態
1~3Fr
5
閉塞
内腔なし(0Fr)
High
EAUガイドラインは狭窄部の内腔径による分類を提唱している(表3)4)。尿道内
腔が狭小化しても10Fr以下にならないと尿勢低下が顕在化しにくいことから69),狭
窄部の内腔径が16Fr以上に保たれている場合は治療の必要はないとしている4)。
参 考 文 献
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2
尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
尿道狭窄症を疑う症状を主訴に患者が来院した場合,まずは原因になり得る疾患の
既往(会陰部の外傷や骨盤骨折,尿道カテーテル留置歴,経尿道的手術歴など)を入
念に聴取する。侵襲なく行えるUFM,PVR,患者報告アウトカム評価(PROM)を
用いた主観的症状の評価を経て,尿道狭窄症の疑いが強まれば,膀胱尿道鏡や尿道造
影で診断を確定するという方針が海外のガイドラインで推奨されている1,2)(図1)。
尿道狭窄症の症状は排尿困難や尿勢低下など排尿症状が主であるが,しばしば非特異
的な症状を呈する場合があり,疑わないと診断にたどり着けない例が散見される。本
章では尿道狭窄症の診断に有用な臨床症状,検査法について解説する。
(1)尿道狭窄症を疑う臨床症状
要約
・下部尿路症状は尿道狭窄症において最も頻度の高い症状である。
・尿路感染やカテーテル留置困難,会陰部の疼痛,勃起障害や射精障害など下
部尿路症状以外で発見される例もある。
尿道狭窄症の患者は尿道内腔の狭小化に伴う尿勢低下などの排尿症状,頻尿や尿意
切迫感などの蓄尿症状を有することが多い。Rourkeらは611例の前部尿道狭窄症患
者を対象とした疫学調査を行い,92.9%の患者が初診時に何らかの下部尿路症状を有
し,29.8%は尿閉の既往があったと報告した3)。下部尿路症状以外にも,尿路感染症
(20.3%),カテーテル留置困難(13.6%),肉眼的血尿(11.3%),尿路・生殖器の疼
痛(22.9%),尿道周囲膿瘍/壊死性筋膜炎(3.3%),水腎症/腎不全(4.1%),尿失
禁(3.1%),性機能障害(主に射精障害,12.1%)が報告されており,全体の22.3%
の患者が下部尿路症状以外の症状を有していた3)。Kingらは,1,023例の尿道狭窄症
患者が初診時に有した合併症を調査し,40.6%の患者が即時治療を要する合併症(尿
閉,カテーテル留置困難,腎不全,尿道周囲膿瘍,敗血症)を有していたと報告した4)。
Nuss らは前部尿道形成術を施行した214例のうち,術前の時点で勃起障害・射精障
害が11%に認められ,特に尿道下裂術後の形成部尿道の狭窄やLSによる狭窄で高頻
度に認められたと報告した5)。女性の尿道狭窄症も男性と同様に尿勢低下が最も頻度
の高い症状であるが,蓄尿症状,排尿時痛,反復する尿路感染症など多彩な症状を呈
するため,診断にしばしば難渋する傾向がある6,7)。
BQ
2.尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
21
尿路閉塞による排尿症状
UFMとPVRの評価
尿道狭窄症の疑い
あり
なし 他疾患を検索
膀胱尿道鏡・RUG・VCUG
尿道狭窄症あり
尿道狭窄症なし
外傷性狭窄
瘻孔など尿道外病変の併存
繰り返す前治療歴による複雑な狭窄
あり
MRI
他疾患を検索
なし
治療法の計画
図1 尿道狭窄症の診断アルゴリズム
膀胱尿道鏡や尿道造影により狭窄が確認されても自覚的に無症状な患者も存在す
る。尿道内腔径が10Fr以下になるまでは無症状のことが多く,特に狭窄が緩徐に進
行する例では自覚症状が現れにくい8)。Purohitらは,偶発的に発見された軽度の尿
道狭窄症32例における合計42ヵ所の狭窄部を経過観察したところ,狭窄が進行(内
腔が狭小化)した例が一部(11.9%,5/42ヵ所)に認められたものの,自覚症状が悪
化した例や治療を要した例はなかったと報告した9)。このように尿道狭窄症の症状は
多彩かつ非特異的と言える。したがって,症状だけで前立腺肥大症など他の下部尿路
閉塞性疾患と鑑別することは不可能である。実際,前立腺肥大症に対する経尿道的手
術の際に,術前に想定されていなかった狭窄が術中に初めて発見されるということは
泌尿器科医がしばしば経験することである。下部尿路症状の原因が前立腺肥大症では
なく,併存する尿道狭窄症である可能性を念頭に置いておく必要がある(もちろん逆
の可能性もある)。前立腺肥大症に対する経尿道的手術を計画する際には膀胱尿道鏡
で尿道狭窄症の併存を否定しておいた方がよいかもしれない。
22
(2)特徴的な身体所見
要約
・尿道口の位置異常や狭窄,皮膚との瘻孔,尿道海綿体の硬結の有無などを観
察する。
・尿道形成術を想定した身体所見の確認も重要である。膀胱瘻が留置されてい
る場合は,カテーテルのサイズだけでなく,適切な位置に造設されているか
を確認する。砕石位での手術が可能か,つまり,下肢の開脚と高位挙上が可
能か術前に確認しておく。
・口腔内の衛生状態を確認し,口腔粘膜が代用組織として利用可能か確認する。
1.腹部の診察
慢性的に多量の残尿を有する患者や尿閉をきたした患者では,膀胱の緊満による下
腹部の膨隆を認める。既に膀胱瘻が造設されている場合は,カテーテルサイズだけで
なく適切な場所(正中かつ恥骨上2横指頭側)に造設されているかを確認する10)。
尿道形成術の際に狭窄部の近位側の位置を確認する目的で,膀胱瘻から順行性に膀胱
尿道鏡や金属ブジーを挿入することがあるため,膀胱瘻を18Fr以上に拡張しておく
ことが望ましい。適切な場所に膀胱瘻が造設されていないと,順行性操作に難渋する
ことがあるので,術前に必ず造設部位を確認しておく。
2.外陰部の診察
尿道口の位置,外尿道口狭窄,尿道下裂修復の手術跡,陰茎の屈曲や会陰部の瘻孔
の有無を確認する。外尿道口から亀頭部にLSを示唆する白色の瘢痕がないか確認す
る。陰茎包皮は尿道形成術の代用組織として利用することがあるため,余剰があるか
確認する。陰茎部尿道から会陰部にかけて尿道海綿体を触診し,硬結の有無を確認す
る。硬結は尿道海綿体の線維化が高度であることを示唆する。PFUI例では直腸診に
より直腸と前立腺および周囲組織の可動性を評価する11)。
3.口腔内の診察
頬粘膜や舌粘膜などの口腔粘膜は尿道形成術の代用組織として使用する可能性があ
るため,術前に粘膜の状態を確認しておく。口腔内の衛生状態が悪い場合は,代用組
織に適さないことがある1)。
4.体位の確認
尿道形成術を行う可能性がある例では,一般的な砕石位よりも高位(下肢を90度
近く挙上することが多い)で手術を行うことが可能か事前にベッドサイドで確認して
おく。骨盤骨折の既往,膝・股関節症の存在,また神経疾患で下肢痙縮がある例など
BQ
2.尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
23
は十分な砕石位が取れない場合がある10)。長時間の砕石位で,神経障害,コンパー
トメント症候群などの合併症も起こり得るので下肢の可動性,神経障害の評価ととも
に肥満の程度も評価しておく。
(3)尿流測定(UFM)と残尿量(PVR)
要約
・UFMやPVRは尿道狭窄症の初期評価および治療後のフォローアップにおけ
る非侵襲的検査として利用できる。
・尿道狭窄症に特徴的なUFM所見として,Qmaxの低下,プラトー化を伴う
曲線,排尿時間の延長がある。
・UFMやPVRは尿道狭窄症の確定診断に用いるべきではなく,膀胱尿道鏡検
査や尿道造影の補助として利用する。
1.UFM
UFMは簡便で非侵襲的検査であるため,尿道狭窄症を疑う患者の初期評価および
治療後のフォローアップの検査法として用いられている。尿道狭窄症に特徴的な波形
として,Qmaxの低下,プラトー化を伴う曲線,排尿時間の延長がある。しかし,成
人(特に高齢者)の排尿機能は前立腺肥大症に伴う下部尿路閉塞や排尿筋力低下など
他の病態の併存に影響されるため,UFM単独での診断精度は低い。EAUガイドラ
インやSIUガイドラインは,UFM単独で尿道狭窄症を診断するべきではなく,あく
までも尿道造影や膀胱尿道鏡の補助として用いることを推奨している1,12)。最近では,
Lambert らが尿道狭窄症と前立腺肥大症をUFMに関連するパラメータのみで区別す
る統計モデルを構築し,感度80%,特異度78%で尿道狭窄症を診断できると報告し
た13)。しかし,この統計モデルを簡便に利用できるソフトウェアがなく,実用性に
乏しいのが現状である14)。尿道狭窄症の初期評価に関して,Heynsらは,Qmaxが
尿道径と正の相関,IPSSと負の相関があることを示し,Qmax<15mL/秒のカット
オフ値とIPSS>10のカットオフ値を組み合わせることで,臨床的に意味のある尿
道狭窄症(尿道内腔径14Fr以下)を感度93%,特異度68%,総合精度82%で特定
できるとした15)。
治療後のフォローアップにおいてもUFMは有用であるが,再狭窄を疑う場合の明
確な基準値が存在していなかった。尿道形成術後にQmaxが12mL/秒または15mL/
秒を下回るときに,尿道形成術を不成功と判断するという基準が提唱された1)。しか
し,Qmax 14mL/秒未満であった患者の19%は15Frの膀胱尿道鏡が尿道形成部を
通過可能であり,実際には尿道内腔は開存していたという報告がある16)。Erickson
らはUFMを術後再狭窄の予測に利用するために術前後のQmaxの差に注目し,
10mL/ 秒未満なら再狭窄の可能性が高く,感度92%,特異度78%で再狭窄を診断し
24
得たと報告した17)。もう1つの評価基準としてUFMの曲線の形態評価がある。平坦
(Plateau)型の曲線であれば再狭窄を感度93%で予測し,症状を組み合わせること
により陰性的中率が99%になると報告された17)。しかし,実際には平坦型曲線を客
観的に定義する基準のないことが問題であった。TamらとYanagiらは平坦化を数値
化する指標として最大尿流率と平均尿流率の差(Qmax-Qave)を用いることで,
Qmaxよりも尿道形成術の成功を予測するarea under the curveが高いことを示し
た18,19)。Yanagi らは Qmax-Qave >6mL/秒であれば手術成功の陽性的中率87%で
ありQmax>20mL/秒であれば陽性的中率が86%になると報告した19)。
2.PVR
超音波により評価されるPVRは,排尿後に膀胱が空虚になったかどうかを客観的
に測定できる非侵襲的検査である。PVRが多ければ尿道狭窄症の存在,あるいは治
療後の再狭窄を予測できるかもしれないが,実際には検証されていない。尿道狭窄症
の初期評価として85%の医師がPVRを使用している一方,治療後の再狭窄をスクリー
ニングする手法としてPVRを利用している医師は8%に過ぎない20)。超音波による
PVRの測定は検査間の変動が大きく,EAUガイドラインではUFMと同様に尿道狭
窄症の診断やフォローアップの補助的診断としては有用であるが単独で用いるべきで
はないとしている1)。
(4)画像検査
要約
・RUGは尿道狭窄症の診断におけるgold standardである。狭窄部中枢側の評
価のためにVCUGを併行して行うことが望ましい。
・膀胱尿道鏡の診断精度は高いが,狭窄長など尿道全体を確認するには難があ
り,RUGやVCUGと併行して行うことが望ましい。
・近年,外傷性狭窄の評価におけるMRIの有用性が報告されている。
尿道狭窄症の画像検査法として尿道造影(RUG,VCUG),尿道超音波検査(SUG),
膀胱尿道鏡,MRI,CTが報告されている1,2,12)。以下各検査について述べる。
1.逆行性尿道造影(RUG)と排尿時膀胱尿道造影(VCUG)
RUGは尿道狭窄症の評価におけるgold standardであり,最も頻用される検査で
ある1,2,12)。尿道狭窄症の診断におけるRUGの感度は91%,特異度は72%と報告さ
れている21)。RUGの弱点は外尿道口や遠位陰茎部狭窄の評価が難しいことと,内腔
の閉塞した尿道狭窄症においては狭窄部近位の評価が困難なことである12)。そのため,
VCUGを併用することが望ましい1,12)。PFUI例では,外傷に伴う膀胱頸部の開大を
BQ
2.尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
25
評価するためにもVCUGは有用である22)。SIUガイドラインは尿道狭窄症の診断に
おける検査法としてRUGをグレードA,VCUGをグレードBの検査として推奨して
いる12)。
RUGは汎用性があり,狭窄の評価には重要な画像検査であるが,狭窄長を過小評
価するリスクがある1,22)。適切な体位で撮影してもなお,得られる画像は二次元の正
射影であるため,画像化される尿道長や狭窄長は実際より短いことを念頭に読影する
必要がある。また,外傷に伴う立体的偏位,尿道海綿体の線維化,直腸や静脈叢など
周囲組織との解剖学的位置関係,微細な瘻孔を描出できないことも弱点である。造影
剤注入に伴う疼痛や海綿体や血管への溢流による感染症のリスクがある12,23)。RUG
の結果は施行者に依存しており,尿道の位置,陰茎の伸展具合,骨盤の回転,患者体
格などさまざまな要素によって影響を受けるので,検査は治療を担当する医師のもと
で行うことが理想である12,24)。
尿道造影の方法
①造影前に単純像を撮影する。レントゲンフィルムに対して尿道を可能な限り平行
に撮影するため,下側の閉鎖孔が見えなくなるまで十分に斜位をかけて撮影する
(30~45度程度の斜位)。下側の下肢は屈曲させ上側の下肢は伸展させる。
②まずRUGを行う。陰茎を牽引し,シリンジやカテーテルチップを用いて20~
30mLの水溶性造影剤を外尿道口からゆっくり注入し,造影剤が外尿道括約筋を
通過して膀胱に達することを確認する。過度の圧で尿道外へ溢流しないよう注意
する。狭窄部の内腔が閉塞している場合には閉塞点が同定できるまで注入する。
尿道カテーテルを利用する方法(尿道内でバルーンを拡張,固定して造影する方
法)も報告されているが22),ごくわずかな拡張でもバルーン径は尿道内腔より
も大きくなり,尿道粘膜の損傷,虚血,医原性狭窄の原因となり得ることに注意
する25)。
③次いでVCUGを行う。まず,ガイドワイヤーを用いて尿道内腔を確保する。狭
窄部より細い尿道カテーテルもしくは尿管カテーテルを膀胱内に挿入し,十分に
尿意を感じるまで造影剤を注入する。膀胱瘻を留置されている場合は,膀胱瘻か
ら直接造影剤を注入する。仰臥位のまま,もしくは足台を設置して立位で排尿さ
せて撮影する。尿道内腔が完全に閉塞している場合にはRUGを同時に行い,狭
窄部を挟み撃ちして造影する22)。
2.尿道超音波検査(SUG)
尿道超音波検査(SUG)は狭窄の部位や長さに加え,尿道海綿体の線維化を低侵襲
に評価できる1,2,26,27)。リニア型プローベを陰茎腹側から陰囊,会陰部に直接当てな
がら生理食塩水を尿道口からゆっくり注入し,陰茎部尿道から球部尿道をリアルタイ
ムに観察する28)。RUGに比べて疼痛や出血が少ないと報告されている12)。尿道海綿
体の線維化は尿道内腔周囲の肥厚組織として描出される22)。SUGはRUGよりも狭窄
26
長の評価が正確で,RUGにはできない線維化した尿道海綿体の評価が可能であると
いう報告がある一方,検査が術者に依存するため結果が一定しないことや,体表から
の距離が遠くなる近位球部尿道や後部尿道は評価が難しく12,22,29,30),臨床的な有用
性は確立していない。このような背景から,reconstructive urologistの多くは実臨床
でSUGを用いていない31)。
3.膀胱尿道鏡
膀胱尿道鏡は狭窄を直接観察することが可能であるため,狭窄の有無を診断する上
で最も精度が高い32)。また,狭窄部だけでなく,尿道造影で評価できない狭窄部周
囲の細かな尿道粘膜の線維化や色調を観察できる。しかし,狭窄部の中枢側を観察で
きないため,単独では正確な狭窄長の評価が難しく,尿道造影と併用することが望ま
しい。狭窄部の中枢側の観察を必要とする場合は,細径の小児用膀胱鏡,尿管鏡の使
用が有用という報告もある2,12)。膀胱瘻を造設されている患者では,瘻孔から順行性
に狭窄部を直接観察しながら狭窄部を造影することも可能である。これはVCUGで
膀胱頸部がうまく開大せず狭窄部の近位が描出できない例において有用な方法であ
る。また,PFUI例では膀胱頸部損傷の有無を直接観察できることも膀胱尿道鏡の利
点である。
4.MRI
非侵襲的かつ高解像度で狭窄を三次元で評価できるモダリティーとして近年注目さ
れている。軟部組織のコントラストに優れ,放射線の影響を受けずに尿道や尿道周
囲組織を鮮明に描出できるため,尿道造影よりも多くの情報を得ることができる。特
にPFUIなどの外傷性狭窄の評価において有用である。外傷による瘢痕はMRIのT2
強調画像で低信号に描出される。尿道造影での評価が難しい尿道の偏位,直腸や静脈
叢など周辺臓器との位置関係,憩室や微細な瘻孔などを明瞭に評価でき
る1,2,12,23,33,34)。また,尿道形成術に必要とされる手技や手術の難度予測にも有用
である。MRI画像で断裂した前立腺尖部が恥骨結合下縁のレベルより頭側に偏位し
ている場合は,尿道形成術の際に恥骨下縁切除が必要となる可能性が高い35,36)。
Horiguchi らはMRI矢状断画像で恥骨結合の長軸方向と恥骨下縁から尿道盲端を結
ぶ方向がなす角度が小さいほど,尿道形成術の際に複雑な手技を要する可能性が高く
なると報告した33)。また,損傷を免れた膜様部尿道の長さをMRIで評価することで
尿道形成術後の尿禁制を予測できるという報告もある37)。このようにMRIは尿道狭
窄症の診断における新たなモダリティーとして注目されているが,読影に慣れた医師
でないと解釈が難しいこと,撮影に時間がかかること,骨盤骨折の内固定具によるアー
チファクトが無視できないこと,そしてRUG,VCUG,SUGよりも高価であること
が問題である38)。
BQ
2.尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
27
5.CT
尿道狭窄症の評価におけるCTの有用性は限定的である。3D-CTでの膀胱尿道造
影はPFUIにおける骨盤の解剖学的情報(尿道断裂部や尿道断端の方向や骨片と尿道
との関係,瘻孔,偽尿道,憩室など)が評価可能で,膀胱尿道鏡や尿道造影の補助と
して有用かもしれない12)。
(5)患者報告アウトカム評価(PROM)
要約
・尿道狭窄症の評価においては膀胱尿道鏡や尿道造影などの客観的評価だけで
なく,患者自身による症状の主観的評価が重要である。
・主観的評価には尿道狭窄症に特異的なPROMの使用が望ましい。
これまで尿道狭窄症の評価はUFM,PVR,膀胱尿道鏡,尿道造影などによる客観
的評価により行われてきた。しかし,このような客観的評価と患者自身の自覚症状は
必ずしも一致しない。このような背景から,尿道狭窄症の診療では患者自身による主
観的評価(患者報告アウトカム)が重要視されるようになってきた1,39~42)。主観的
評価には,妥当性の検証された質問票を用いることが推奨される。患者の多くは排尿
困難,尿意切迫など下部尿路症状を主症状とするため,AUA-SymptomScore
(AUA-SS)が広く用いられてきた。Aydosらは,AUA-SSの点数とQmaxが逆相関
する結果から,AUA-SSが尿道形成術後の再狭窄をスクリーニングするツールとし
て適切であると報告した43)。一方,AUA-SSには陰茎部狭窄や亀頭部・舟状窩狭窄
に多くみられる尿線分離に関する質問が含まれないため,尿道狭窄症に特有の症状評
価やQOLを十分に評価できないという指摘もあった2)。尿道狭窄症に特異的な質問
表として,2011年にイギリスのグループが尿道狭窄症手術向けの患者報告アウトカ
ム評価(PROM for Urethral Stricture Surgery:USS-PROM)を開発し,妥当性を
検証した42,44)。USS-PROMは尿道狭窄症の手術に対する患者自身の主観的評価と患
者満足度を測定するツールで,EAUガイドラインは尿道狭窄症の治療を受ける患者
への使用を強く推奨している1)。USS-PROMは,排尿症状に関する6つの質問から
なるLUTSスコア,LUTS関連QOL,Peeling’s picture score45),患者満足度,Euro
QOLによる健康関連QOL(EQ-5D index,EQ-VAS)から構成される。イギリスか
らの報告後,イタリア語やスペイン語などさまざまな言語に翻訳され,妥当性が報告
されている41,46,47)。Horiguchi らは,USS-PROMを日本語に翻訳し,英語版と同等
の信頼性と妥当性があることを報告した41)(図2)。USS-PROMは簡便で優れたツー
ルであるが,排尿症状関連の質問がメインで蓄尿症状の評価ができないこと,勃起・
射精障害など性機能関連の質問や陰茎の外見など整容性に関する質問が含まれていな
いことが欠点であり,現時点では,OABSSやICIQ-SFなどによる過活動膀胱や尿失
28
尿道狭窄症に関する問診票
最近4週間の症状に最も当てはまる□にチェックをいれてください。
質問1.尿の出始めに時間がかかることがありますか?
□
□
□
□
□
全くない
たまにある
ときどきある(半分くらい)
ほとんどいつもある
いつもある
質問2.尿の勢いはいかがですか?
□ 正常
□ たまに弱い
□ ときどき弱い(半分くらい)
□ ほとんどいつも弱い
□ いつも弱い
質問3.排尿を維持するのに力(りき)む必要がありますか?
□ 全くない
□ たまにある
□ ときどきある(半分くらい)
□ ほとんどいつもある
□ いつもある
質問4.排尿の途中で尿が一度でも途切れることがありますか?
□ 全くない
□ たまにある
□ ときどきある(半分くらい)
□ ほとんどいつもある
□ いつもある
質問5.排尿後に尿が残っていると感じることはありますか?
□ 全くない
□ たまにある
□ ときどきある(半分くらい)
□ ほとんどいつもある
□ いつもある
質問6.排尿後に下着を着用してすぐに下着が湿っていることはありますか?
□ 全くない
□ たまにある
□ ときどきある(半分くらい)
□ ほとんどいつもある
□ いつもある
質問7.あなたの排尿の具合は,あなたの生活をどのくらい悩ませていますか?
□ 全く悩んでいない
□ 少しだけ悩んでいる
□ 結構悩んでいる
□ 非常に悩んでいる
質問8.最近4週間の尿の勢いに最も近いのはどれですか?下図の1から4の
いずれかに丸をつけてください。
Which is it ?
4
3
2
1
図2 日本語版 尿道狭窄症手術向け患者報告アウトカム評価(USS-PROM)(文献41より引用)
禁の評価,SHIMなどによる性機能の評価を併行して行うことが望ましい。
参 考 文 献
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BQ
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BQ
2.尿道狭窄症の臨床症状,検査,診断
)尿道狭窄症治療の診療パターン
1.尿道狭窄症治療の変遷
尿道狭窄症は歴史的に最も古くから治療されてきた泌尿器疾患の1つであり,何世
紀にもわたり尿道拡張が主な治療法であった。紀元前6世紀の古代インドの記録には
バターで潤滑させたカテーテル状の管による尿道拡張,同じ頃の中国では竹製のカ
テーテルによる尿道拡張の記録が残っている1)。20世紀初頭まで尿道拡張はさまざ
まな改良が加えられてきたものの,治療効果の向上はみられず,尿道狭窄症で入院し
た患者は“never dischargeable(決して退院できない)”といわれ,“Once a stric
ture, always stricture(一旦狭窄が生じると治らない)”という認識が一般的であっ
た1)。19世紀後半にMaisonneuveとOtisが盲目的に狭窄部を切開する内尿道切開刀
を作製し,尿道の内腔から狭窄部を切開する手法が普及しはじめた1)。内視鏡技術の
開発と普及に伴い,1974年に直視下でのcold knifeによる切開法が報告された1)。手
術手技が容易であること,尿道形成術の専門知識を要さないこと,低侵襲かつ短期入
院での治療が可能であること,そしてendourologyが目覚ましい発展を遂げた時代
的背景も相まって,ほとんどの尿道狭窄症でDVIUを主とした経尿道的治療を第一
選択とするようになった。
一方,開放手術(尿道形成術)の歴史は意外に古く,ウクライナ出身のSapezhko
が1894年に口腔粘膜を利用した尿道形成術を初めて行った1)。さらに50年後の1941
年にHumbyが尿道下裂に関連する尿道狭窄症に対して同様に口腔粘膜を利用した尿
道形成術を行った1)。しかし,当時は技術が未発達で成功率が低かったため,有効性
が認識されることはなかった。1996年にアメリカのMorey と McAninchが口腔粘
膜を利用したventral onlay法2),イタリアのBarbagliがdorsal onlay法3)を相次い
で報告したことをきっかけに尿道形成術の有効性が認識されるようになった。現在に
要約
・ DVIUや尿道拡張などの経尿道的治療は低侵襲かつ簡便であるが,成功率が
低い。尿道形成術は手技が複雑で適応判断も難しいが,成功率が高い。
・ 尿道形成術は多くの泌尿器科医にとって馴染みが薄いため,効果が期待でき
ない症例に対しても経尿道的治療が過剰に行われている。
・ 海外では尿道形成術が普及しつつあるものの,国や地域による医療水準や尿
道形成術の経験に違いがあり,治療選択に大きなバイアスがある
2025年11月13日 | カテゴリー:泌尿器科的疾患 |




