TGFβと癌との関係
TGFβはがんの“初期”と“進行期”で役割が変わる特殊な因子
TGFβはがんにおいて 二面性(tumor suppressor → tumor promoter) を持つことで有名です。
そのため、高発現し始めるタイミングもがんの進行段階によって変わります。
✅ 1. がんの“初期段階”では TGFβ はむしろ抑制的に働く
正常細胞や前がん状態では、TGFβ は 細胞増殖を抑える・アポトーシスを促す などの腫瘍抑制作用を持ちます。
この段階では、TGFβ の発現量自体は大きく増えないことが多いです。
✅ 2. がんが“進行し始める段階”で TGFβ が高発現し始める
多くのがんで、腫瘍が進行し、細胞がTGFβの抑制作用に抵抗性を獲得した頃から TGFβ が高発現し始めます。
この段階で起こること
がん細胞が TGFβ シグナルの抑制作用を無視するようになる (例:SMAD4 変異、受容体変異など)
その一方で、TGFβ の 腫瘍促進作用 だけが強く働き始める
✅ 3. 進行がん〜転移段階で TGFβ はさらに強く発現
特に以下の場面で TGFβ の高発現が顕著になります。
● EMT(上皮間葉転換)を誘導する段階
がん細胞が移動能・浸潤能を獲得する時期
TGFβ は EMT の主要なドライバー
● 免疫回避が強まる段階
TGFβ は免疫抑制性サイトカインとして働き T細胞・NK細胞の働きを弱める
● 腫瘍微小環境(TME)が形成される段階
CAF(癌関連線維芽細胞)
免疫抑制性マクロファージ(TAM)
ECMリモデリング などを誘導し、TGFβ が大量に分泌される
✅ まとめ:TGFβが高発現し始めるタイミング
| がんの段階 | TGFβの働き | 発現量 |
|---|---|---|
| 初期 | 腫瘍抑制(増殖抑制) | 大きく増えない |
| 中期(進行開始) | がん細胞が抑制作用に抵抗 → 腫瘍促進へ転換 | 増え始める |
| 進行〜転移段階 | EMT・免疫抑制・転移促進 | 高発現 |
2025年12月20日 | カテゴリー:サイトカイン/ケモカイン/ホルモン, 各種病因学, がん検診, 癌の病態生理と治療学 |




