アディポネクチン低下からTGF-β誘導までの分子機構
アディポネクチンが低下すると、炎症性シグナルや酸化ストレスが亢進し、それがTGF-βの発現・活性化を誘導します。分子レベルでは、AMPK経路の抑制やNF-κB活性化を介して線維化促進性の環境が形成され、最終的にTGF-β/Smadシグナルが強く働くようになります。
アディポネクチン低下からTGF-β誘導までの分子機構
1. アディポネクチンの役割
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される抗炎症性アディポカイン。
AMPK活性化やPPARαシグナル促進を通じて、炎症・線維化を抑制する。
正常状態では、TGF-βの過剰な発現や活性化を抑える働きを持つ。
2. アディポネクチン低下の影響
肥満や糖尿病などでアディポネクチンが減少すると、AMPKシグナルが低下。
その結果、NF-κBやJNK経路が亢進し、炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)が増加。
これら炎症性因子がTGF-β遺伝子の転写を促進する。
3. TGF-βの発現と活性化
TGF-βは潜在型(latent form)として分泌され、プロテアーゼやROSによって活性型に変換される。
アディポネクチン低下に伴う酸化ストレスやMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の増加が、この活性化を促進。
4. TGF-βシグナル伝達
活性型TGF-βはII型受容体に結合し、I型受容体をリン酸化。
これによりSmad2/3がリン酸化され、Smad4と複合体を形成して核へ移行。
核内で線維化関連遺伝子(コラーゲン、フィブロネクチン)を転写活性化。
5. 線維化・病態への展開
アディポネクチン低下 → 炎症・酸化ストレス増加 → TGF-β誘導 → 線維芽細胞活性化・上皮間葉転換(EMT) → 線維化進展。
肝線維症、腎症、心筋リモデリングなど多くの疾患でこの経路が確認されている。
まとめ
アディポネクチン低下はAMPK抑制と炎症性経路亢進を介してTGF-β発現を誘導。
酸化ストレスやMMP活性化が潜在型TGF-βを活性化。
TGF-β/Smadシグナルが線維化関連遺伝子を誘導し、臓器線維化を進展させる。
この流れが「アディポネクチン低下からTGF誘導まで」の分子論的な主要経路です。
Sources: 日本血栓止血学会誌 総説 TGF-β活性化機構昭和薬科大学 TGF-βファミリーの二面性東京大学 分子病理 TGF-βとSmadシグナルTGF-βの働きとがん進展奈良先端科学技術大学 TGF-βシグナル依存的遺伝子発現
2025年11月15日 | カテゴリー:サイトカイン/ケモカイン/ホルモン, 各種病因学 |




