ROSとリン酸化
細胞内のROS(活性酸素種)が増加すると、タンパク質のリン酸化状態に影響を与えることがありますが、「非酵素的にリン酸化を受ける酵素」は非常に限られており、むしろROSはリン酸化酵素や脱リン酸化酵素の活性を変化させることで間接的にリン酸化を制御します。
ROSによるリン酸化制御のメカニズム
✅ 主な作用は「酵素活性の変化」
ROSはプロテインキナーゼ(PK)やホスファターゼ(PP)に酸化的修飾を加えることで、リン酸化のバランスを変化させます。
例:PTP(Protein Tyrosine Phosphatase)はROSによりシステイン残基が酸化され、脱リン酸化活性が低下 → 結果的にリン酸化状態が増加
⚠️ 非酵素的リン酸化は稀
通常、リン酸化はATPを基質とする酵素反応(キナーゼ活性)によって起こります。
ROSによる「非酵素的リン酸化」は、直接リン酸基を付加するというよりも、酸化的ストレスによってリン酸化されやすい状態を作るという意味合いが強いです。
ROSによってリン酸化状態が変化する代表的な酵素
| 酵素名 | ROSの影響 | 結果 |
|---|---|---|
| MAPK(Mitogen-Activated Protein Kinase) | ROSにより活性化 | 細胞増殖・分化の促進 |
| JNK(c-Jun N-terminal kinase) | ROSにより活性化 | アポトーシス誘導 |
| ERK(Extracellular signal-regulated kinase) | ROSにより活性化 | 増殖・生存シグナル |
| AKT(Protein Kinase B) | ROSにより活性変化 | 細胞生存・代謝調節 |
| NF-κB関連キナーゼ | ROSにより活性化 | 炎症応答の促進 |
➡ これらはROSによって間接的にリン酸化が促進される酵素であり、「非酵素的リン酸化」ではなく「酵素活性の変化によるリン酸化増加」です。
例外的な非酵素的リン酸化の可能性
一部の研究では、高濃度のROS環境下でリン酸基がタンパク質に非酵素的に付加される可能性が示唆されていますが、これは生理的条件ではほとんど起こらないと考えられています。
例:過酸化水素(H₂O₂)によるタンパク質の酸化的変性 → 構造変化によりリン酸化部位が露出しやすくなる
✅ まとめ
ROSによって非酵素的にリン酸化される酵素は、現時点では明確に確立されたものはほぼありません。
実際には、ROSがキナーゼやホスファターゼの活性を変化させることで、リン酸化状態が変化するというのが主なメカニズムです。
2025年10月22日 | カテゴリー:代謝学, AUTODOCK VINA,CLUS PRO/BIOINFORMATICS, 生活習慣病 |




