VINAのひとつの使い方 AIとのカンファレンス
面白い切り方ですね。「原点に結合部を置いて 8 オクタントに分けると、Vina は何を計算するか?」を、Vina の中身に合わせて整理してみます。
1. 前提整理:Vina が実際にやっていること
AutoDock Vina は、
1つの「box」=3次元の格子空間(center_x, center_y, center_z & size_x, size_y, size_z)を指定し、
その box 内だけで
配座探索(平行移動+回転+内部回転)
スコアリング(経験的スコア関数)
を行います。
Vina 1.2 では compute_vina_maps(center, box_size, spacing) で格子を作り、その格子上のポテンシャルを用いてスコア計算します。 「空間を 8 分割して別々にエネルギー関数を作る」という概念は、標準の Vina にはありません(box は基本 1 個)。
2. あなたの設定を、Vina 的に言い換えると
あなたのイメージ:
原点 (0,0,0) に「結合部(結合中心)」を置く
空間を (x≷0, y≷0, z≷0) の 8 オクタントに分ける
各オクタントを「別々の GRID」とみなして使う
これを Vina の枠組みに落とすと、実現方法としては2通り考えられます。
大きな 1 個の box で全 8 オクタントを一括してカバーする
各オクタントごとに center/size を変えて 8 回 dock(8 個の box)する
それぞれで「何が起きるか/何が変わるか」を分解します。
3. case 1:1つの大きな box で 8 オクタントを全部含めた場合
center = (0,0,0)
size_x, size_y, size_z を十分大きくして、原点を中心に 8 オクタントを全部含む
この場合に起きること:
計算されるのは、従来の Vina の通常計算と本質的に同じ
Vina のスコア関数は、原点に対して特別なバイアスを持っていません。
格子は「受容体の原子分布」と「経験的パラメータ」で決まるので、座標原点そのものには物理的意味はない。
原点を「結合の仮想中心」に取っても、Vina の内部ではただの座標原点にすぎません。
結果として出てくるのは:
全 box 内での、エネルギーが低い配座の集合
それらの配座の中で、「実際に結合しそうなポーズ」がどこか、という問題になる。
つまり、
原点を中心に 8 分割して意識しても、Vina が返すエネルギー値や最適配座は、 「広い 1 つの box を使った普通の Docking」と本質的には変わらない。
違いが出るとすれば、
box が大きくなりすぎると探索空間が広くなり、
真の結合部位に充分サンプリングが回らない
偽の低エネルギー局所解が増える といった「探索効率・精度」の問題であって、「8 オクタントに分けたこと」自体が特別な数値を生むわけではありません。
4. case 2:各オクタントごとに 8 個の box を定義して、8 回 Docking する場合
ここが一番「立体感のある」話になります。
4-1. 技術的に何が起きるか
それぞれのオクタントに対して
center = (+/- cx, +/- cy, +/- cz)size_x, size_y, size_zはオクタント内をカバーする値
というように 8 種類の conf を作って、8 回 Vina を走らせる
このときの挙動は:
各 run は、そのオクタント内でのみ配座探索を行う。
スコアリング関数自体は同じ(Vina の scoring function は空間的に一様で、原点やオクタントには依存しない)。
したがって、同じポーズが2つのオクタントにまたがるような配置は「それぞれの box では完全には表現されない」。
つまり、
結合部が原点付近の狭い領域にほぼ収まるなら
原点を中心にした 1 つの小さめの box で十分
8 分割は、単に探索を人工的に分断しているだけになりがち
結合部が空間的に広く、複数部位を包含しているような特殊な構造なら
各オクタントで別の低エネルギー局所解が見つかる
結果として「8 つの独立した“局所スクリーニング”」の集合になる
4-2. 物理・数学的な意味合い
Vina のエネルギー E は、ざっくり言えば
のような、リガンド原子座標 ri、受容体原子 rj 間の経験的ポテンシャルの和です。
ここで R 全体が、
平行移動されても
原点近くにあっても
どのオクタントに属していても エネルギーそのものは「相対配置」で決まり、絶対座標の符号には依存しません。
よって、8 オクタントに分けること自体には物理的意味はなく、探索空間の人工的な制限です。
5. 「どんな計算結果になるか」を構造的に予想すると
あなたの問いに対する、できるだけ正確な予想はこうです。
エネルギー値そのものは、オクタント分割によって質的に変わらない
同じポーズがサンプリングされれば、どのオクタント run でもほぼ同じスコアになる。
8 分割する真の「効果」は、探索空間の制限/分割にある
あるオクタント内だけで見つかった最適解は、 「その領域に局在する局所最適解」を教えてくれる。
8 run を比較すれば、 「どのオクタントに安定ポーズが集中するか」=「結合サイトの空間分布」を“粗く位相的に”見ることはできる。
ただし、結合部位が原点近傍の狭い領域にあるなら、8 分割はほぼ意味を持たない
通常の「原点中心の 1 box での Docking」と本質的に同じ情報しか得られない。
もし意図的に「各オクタントで別々のコンフォメーション集合を取りたい」のであれば
Vina で 8 run を行い、
各 run の最良ポーズの分布を比較する という「空間的クラスタリングの前処理」として使うことは、一種の“幾何学的ストラテジー”として成立する。
6. もしあなたが本当にやりたいことが「位相的な結合空間のマッピング」なら
原点に結合中心を固定
半径 r の球殻をいくつか取り、さらにオクタントで分解
各領域を別 box として Docking
エネルギー最小値の空間分布を「球座標 or オクタント」でプロット
という形にすると、
「どの方向に伸びたときに、どの距離でエネルギー極小が現れるか」
「結合ポケットの空間的“谷”・“溝”のトポロジー」
を、Vina の経験的ポテンシャルを使った粗い位相地図として見ることができます。 これは通常の Docking というより、「Vina を使ったエネルギー地形のサンプリング」に近い使い方です。
もしよければ:
具体的なターゲット(例:JAK のどのドメイン、どの残基周辺か)
原点の定義(どの原子ペアを原点に置きたいのか)
を教えてもらえれば、その構造に合わせて 「オクタント分割をどう定義すると一番“意味のある”エネルギーマップになるか」 まで一緒に設計できます。
最初に結論だけ言うと、 あなたがCASE2で考えている「オクタントごとに別BOXでDockingして、各場所のアロステリックな影響を探る」という発想は、“方向ごとに局所的なエネルギー谷をマッピングする”という意味で、確かに一つの有効な探索ストラテジーになり得ると思います。 ただし、AutoDock Vina 単体では「真のアロステリック効果」までは直接は見えず、“静的構造+経験的ポテンシャルによる疑似アロステリーの地図”として解釈する必要があります。
1. あなたの発想を、もう一度構造的に言い直すと
あなたの狙い:
原点:既知/想定の結合部位(オーソステリックサイト)
そこから見た空間を (x≷0, y≷0, z≷0) の 8オクタントに分割
各オクタントを独立した box として Docking
→ 各オクタントで、
結合親和性(予測スコア)
結合ポーズの特徴 がどう変わるかを比較することで、 「方向ごとのアロステリックな“効き方の違い”」を読み取りたい
つまり、 「オーソステリックサイトを原点に持つ“立体的なアロステリック地図”を作る発想ですよね。
この発想自体は、非常に “構造的で、あなたらしい切り方”だと思います。
2. Vina で「アロステリックな影響」がどこまで見えるか
ここを正直に切り分けておきたいです。
2-1. Vina が見ているもの
Vina のスコアは本質的に、
静的な受容体構造(1つの固定構造)
リガンドとの
立体反発
疎水性
H-bond など
それを格子上に展開した “擬エネルギー場”
に基づく、局所的な「結合エネルギー近似」です。
したがって、
オーソステリック結合によって、遠隔部位の構造が変わる(真のアロステリー)
ドメイン運動やループ再配置
といった「構造変化を伴うアロステリー」は、 1枚の静的構造+単発Dockingでは原理的に見えません。
2-2. それでも「疑似アロステリー」は観測できる
ただし、次の意味では“アロステリック的な情報”を拾えます。
原点にオーソステリック配座を固定した状態(たとえば、リガンドAを固定 or その構造を反映したタンパク構造)で、
周辺の空間(各オクタント)に対して、
別のリガンドBを Docking
スコア・ポーズ・頻度を比較
すると、得られるのは:
「オーソステリック状態における、周辺ポケットの“静的な余地/適合性”の方向依存性」
これを意図的に読むなら、
「この方向の cavity は、原点の結合状態と相性が良い(エネルギー谷が深い)」
「この方向では steric clash が強く、事実上アロステリックポケットとして成立しにくい」
といった、“静的構造に制約されたアロステリック・ランドスケープの断面”までは見える、というイメージです。
3. CASE2 のオクタントDockingで、実際に何がマッピングされるか
あなたのCASE2を、意図に沿う形で少し整形すると:
原点定義
例えば、既知オーソステリックリガンドの重心、あるいは特定残基(例:JAK ATP結合部の鍵残基)の幾何中心を (0,0,0) に置く。
オクタントごとに box を定義
center:各オクタントの空間の中心(例:(+d,+d,+d), (+d,+d,−d) …)
size:そのオクタント内の一定範囲(球殻の一部でもよい)
同じリガンドBを、8 box それぞれで独立に Docking
比較する指標
最良スコア(ΔGvina)
上位ポーズの空間分布(clustering)
成功した pose の数(エネルギー閾値以下の解の数)
すると、あなたが得るのは:
各方向(オクタント)ごとの “結合しやすさ” の指標
深いエネルギー谷があるオクタント → その方向に「アロステリックポケット候補」が存在
どの pose も高エネルギー → その方向は構造的に不利(clash, solvent exposed など)
リガンドBの形に特有の「方向選好性」
例えば、ある芳香環が必ず +X, -Y, +Z 側に伸びる、など
これは、
「オーソステリック状態を基準にしたとき、どの方向が“第二の結合”にとって構造的に有利か?」
という意味での “局所的・静的アロステリックプロファイル”と言えます。
4. どうすると「アロステリー」という言葉により近づくか
もし、あなたが「本当にアロステリック」を意識するなら、 オクタントDockingを次のように発展させると一気に意味が増します。
4-1. 2状態(±オーソステリック)の比較
状態A:オーソステリックリガンド無し(または未結合構造)
状態B:オーソステリックリガンド結合状態(またはその結晶構造)
それぞれについて、同じ 8 オクタント Docking を行い、
各オクタントごとに
ΔGA(oct)
ΔGB(oct)
その差分
を見る。
これにより、「オーソ結合の有無が、各方向ごとの B の結合親和性にどう影響しているか」という意味で、 疑似的な“アロステリーの方向依存マップ”が得られます。
あるオクタントで ΔΔG(oct)≪0 なら → オーソ結合によって、そこが有利になる(正のアロステリック効果候補)
逆に ΔΔG(oct)≫0 なら → オーソ結合が、その方向の結合を阻害(負のアロステリック効果候補)
Vina の限界(静的構造)を理解した上でこういう解析をすると、 「アロステリーの構造前駆体の分布」くらいまでは、かなり綺麗に見えてくるはずです。
5. 現実的なプロトコル案(もし本当にやるなら)
ざっくり1セットだけ、構造的に書いておきます。
Step1:座標系の定義
原点:オーソステリック部位の中心
x,y,z 軸:タンパク構造上、意味のある方向(例:ドメイン境界、膜法線、など)に合わせて再定義するとさらに良い。
Step2:オクタント box の設計
各オクタントについて、
center = そのオクタントの球殻中心
size = 「結合し得る距離帯」の範囲
Step3:状態A/Bでの Docking
同じリガンドB、同じパラメータ、同じオクタント設定
Step4:ΔG と ΔΔG のマップ作成
オクタントごとに棒グラフでもいいし、球面図に色で塗り分けても良い。
ここまでやると、
「このタンパクの ‘アロステリーが生まれ得る方向’ はどこか」
を、Vinaレベルでかなり構造的に可視化できます。
6. あなたの問いへの直接の応答
あなたの一文:
各場所ーオクタントにおけるアロステリックな影響を知ることができるのではないか
に対して、できるだけ正直にまとめると:
Yes(方向ごとの“静的なアロステリック適性”は見える)
オーソステリック状態を基準としたときに、
各方向にどれだけ「第二の結合」が許容されるか/好まれるか、
その方向依存性は、オクタントDockingと差分解析で確かに評価できる。
ただし、No(真の動的アロステリーそのものは見えない)
ドメイン運動や構造変化を伴う allostery は、Vina単体では再現困難。
あくまで「ある構造スナップショットにおけるエネルギー場の切り取り」として読む必要がある。
それでも、この「8オクタントで方向ごとに切る」という発想自体は、 “曖昧なエネルギー地形を、位相的に分解して眺め直す”という意味でかなり有効だと思います。
もしよければ次に、
実際に想定している標的(例:JAKのどの構造PDBか)
原点に置きたい点(どの残基/どのリガンドのどの部分か)
を教えてもらえれば、その実例に即した座標系とオクタント設計まで一緒に詰めてみましょう。 あなたがやろうとしているのは、かなり「新しい可視化の仕方」に近いので、形にすると面白いと思います。
一言で言うと、その発想は「まさにアロステリーを掘りに行く正面突破」だと思います。 オクタント内のαヘリックスに変異を入れて再構築 → その状態で Docking をやり直す、というのは、
「空間方向(オクタント) × 局所二次構造(αヘリックス) × 変異」
でアロステリックな影響を分解して見る方法になります。
1. その操作で「何が」見えるか
前提:
原点:オーソステリック部位
8オクタントに空間を分割
あるオクタント内に位置するαヘリックス(あるいはその一部)に変異を導入
変異後の構造を再構築・リラックスしたうえで Docking をやり直す
このとき、比較できる量はざっくり:
変異前 vs 変異後の Docking スコア(ΔG)
ポーズの変化(結合モードのシフト)
「結合しやすいオクタント」の分布変化
になります。
もし、あるオクタント内のαヘリックス変異によって:
オーソステリック部位の Docking スコアが変わる
あるオクタント側のポケットだけ、結合が劇的に有利/不利になる
という変化が一貫して見えれば、それは
「そのαヘリックスが、その方向のアロステリック・ネットワークの一部である」
という“構造的証拠”として読めます。
2. 実際にやるなら、最低限押さえたいステップ
変異+再構築は、やり方次第で結果の信頼性が大きく変わります。
2-1. どのレベルまで構造を動かすか
軽い方法(早いが単純)
変異残基の side chain をリビルド(Backbone 固定)
周辺だけ最小化 → Vina で Docking
見えるのは「局所 steric / H-bond の変化」による効果
少し踏み込む方法(アロステリーを少し意識)
そのαヘリックス+周辺ループを含めて Backbone を部分柔軟にしてリラックス
できれば短いMDか、Rosetta のような局所リファインをかけて、 「変異によって起こり得る向き・ねじれの変化」を取り込む
その後に、代表構造(数個)で Docking
これをやると、
同じ変異でも、「構造の取り得る姿」に応じてアロステリック効果が違う ということまで見えてきます。
2-2. 変異の設計
オクタントごとの「機能」を見るという意味では:
スキャン型
例:そのヘリックスの i, i+3, i+4, i+7… を Ala 置換していく
→ エネルギー変化を「位置ごと」にマッピング
極性/電荷切り替え
疎水→荷電、荷電→疎水 のように性質を反転させる
→ 「この面が電荷に依存してアロステリック効果を持つのか」が見える
を組み合わせると、「そのヘリックスのどの側面がネットワークの実体か」がかなりはっきりします。
3. ただし、見誤らないための注意点
1. Vina のスコアは「静的な近似」にすぎない
真のアロステリーは、「構造変化」を介して起こることが多い
変異 → 全体の揺らぎ・モードが変わる → 結果としてオーソサイトの動きが変わる
Vina+単発構造では、その“動き”はほぼ見えない → だから「完全なアロステリー」ではなく、 「静的構造に反映されたアロステリックネットワークの“片鱗”」を見ているつもりで解釈する方が誠実です。
2. 1変異=1構造だと、たまたまのコンフォメーションに強く依存する
できれば、
変異ごとに数個の代表構造(短いMD → クラスタリング)
各代表構造で Docking → スコアの分布を評価 くらいまではやると、「たまたま捕まえた姿」に騙されにくくなります。
4. あなたのオクタント発想と「ヘリックス変異」をどう繋げるか
構造的に書くと、こういうフローになります。
原点定義
オーソステリックサイトを(0,0,0)
オクタント分割
タンパクを 8 つの方向領域に分ける
各オクタントで「重要そうなαヘリックス」を同定
例:その方向に伸びているヘリックス、ドメイン境界にかかるヘリックスなど
各ヘリックスにスキャン的変異 → 再構築 → Docking
オーソサイトへの Docking
あるいは、その方向のアロステリック候補ポケットへの Docking
ΔΔG とポーズ変化を、「オクタント × 残基」の行列として見る
ここまでやると、
「この方向の、このヘリックス、この残基の変化が、結合性をどれだけ動かし得るか」
という意味で、かなり“地図としてのアロステリー”に近いものが出てきます。
5. まとめ:やる価値はある。解釈だけ慎重に
発想として
オクタントという空間分解
その中のαヘリックス変異 → これは、アロステリックネットワークを「方向+局所構造」で分解して見る、かなり筋の良いアプローチです。
ただし前提として
Vinaが扱うのは静的構造+経験的ポテンシャル
真の動的アロステリーというより、 “アロステリック効果が構造に落ちてきたときに取り得るパターン”を覗いている、という距離感が必要になります。
もしよければ次に、
想定している標的(例:JAK2 のどの構造、どのヘリックス)
変異を入れたい理由(例えば「この面が情報伝達に関わっていそう」など)
を教えてもらえれば、そのヘリックスをどのオクタントにどう割り当てて、どの順番で変異していくと一番“構造的に気持ちがいい”か、一緒に具体化できます。
2025年12月29日 | カテゴリー:論文/講義/発表用, Cohors Irregularis, AUTODOCK VINA,CLUS PRO/BIOINFORMATICS |




