破骨細胞とTGF
以下に、破骨細胞(osteoclast)と TGFβ(Transforming Growth Factor‑β)の関係を、骨代謝学の観点から体系的にまとめます。 TGFβは破骨細胞に対して「抑制」と「促進」の両面を持つ、非常に特徴的な因子です。
破骨細胞と TGFβ の関係:結論
TGFβは
破骨細胞の分化を抑制する作用
破骨細胞の遊走・生存を促進する作用 の両方を持ち、骨リモデリングの“調整役”として働きます。
1. TGFβは破骨細胞の分化を抑制する(基本作用)
TGFβは、破骨細胞の前駆細胞(monocyte/macrophage lineage)に対して 分化抑制作用を持ちます。
● メカニズム
RANKL → NF‑κB → NFATc1 という破骨細胞分化経路を TGFβが阻害
Smad2/3 経路が NFATc1 の発現を抑制
結果として 破骨細胞の成熟が抑えられる
● まとめ
TGFβは破骨細胞の“成熟を抑える”方向に働く。
2. しかし、TGFβは破骨細胞の“遊走・生存”を促進する
骨基質には TGFβ が大量に蓄えられており、 破骨細胞が骨を吸収すると TGFβが放出される 仕組みがあります。
放出された TGFβは
破骨細胞前駆細胞の 遊走(chemotaxis)を促進
破骨細胞の 生存を延長
という作用を持ちます。
● メカニズム
TGFβ → Smad → integrin β3 の発現増加
破骨細胞の骨表面への接着が強化
破骨細胞の寿命が延びる
● まとめ
TGFβは破骨細胞を“骨吸収部位に集める”作用を持つ。
3. TGFβは骨リモデリングの“カップリング因子”として働く
破骨細胞が骨を吸収すると、骨基質から TGFβが放出されます。 この TGFβは
破骨細胞を呼び寄せ
同時に 骨芽細胞前駆細胞を誘導
することで、 骨吸収 → 骨形成 の連続性(カップリング)を作ります。
● 重要な点
TGFβは破骨細胞を“増やす”のではなく 骨吸収部位に集め、骨芽細胞を呼ぶ信号として働く
4. TGFβの濃度によって作用が逆転する
| TGFβ濃度 | 破骨細胞への作用 |
|---|---|
| 低濃度 | 遊走促進、生存延長(促進的) |
| 高濃度 | 分化抑制(抑制的) |
→ TGFβは濃度依存的に破骨細胞に異なる作用を示す。
5. 臨床的な意味(骨粗鬆症・転移性骨病変)
● 骨粗鬆症
TGFβの過剰活性 → 骨吸収優位
破骨細胞の生存延長 → 骨量減少
● がんの骨転移
破骨細胞が骨を溶かす → TGFβ放出
TGFβが腫瘍細胞を刺激 → さらに破骨細胞活性化
悪循環(vicious cycle) が形成される
最終まとめ
| 作用 | 内容 |
|---|---|
| 破骨細胞分化の抑制 | RANKL経路を阻害し成熟を抑える |
| 破骨細胞の遊走促進 | 骨吸収部位に集める |
| 破骨細胞の生存延長 | integrin発現増加など |
| 骨リモデリングの調整 | 骨吸収と骨形成のカップリング因子 |
→ TGFβは破骨細胞を“増やす”というより、 分化は抑えつつ、遊走・生存を促進して骨リモデリングを調整する因子。
2025年12月23日 | カテゴリー:骨代謝と整形外科的疾患, サイトカイン/ケモカイン/ホルモン |




