2026研究進展
アロステリック効果に関する研究の進捗:::当院では、臨床で観察される薬剤反応性の差異や遺伝子変異の影響を、タンパク質構造レベルで理解することを目的に、アロステリック経路の定量化と減衰モデルの構築を進めています。以下に、現時点で得られている知見と、進行中の解析内容を専門家向けに整理します。
1. これまでに得られた主要な知見
1-1. Cα–Cα 最短経路に基づくアロステリックネットワークの抽出
- タンパク質内部のエネルギー伝達を、Cα–Cα のグラフ構造上の最短経路として定式化。
- Dijkstra 法および Yen の K-shortest paths を用いて、複数経路の冗長性と経路分布を評価。
- 経路長 L と局所距離 r の寄与を分離し、経路の物理的妥当性を検証。
1-2. 距離依存減衰モデル(1/r²)の妥当性
- 経路上の局所的なエネルギー減衰は、1/r、1/r²、1/r⁶ など複数モデルを比較。
- 教師データ(既知のアロステリック部位間のエネルギー伝達強度)とのフィッティングにより、1/r² が最も高い説明力を示すことを確認。
- これは ENM(Elastic Network Model)の低周波モードの寄与とも整合的。
1-3. 溶媒(水)による減衰の指数関数モデル
- 経路全体の長さ L に対して、溶媒による散逸を
[ \exp(-L/\lambda) ]
と表現するモデルを導入。 - λ は固定パラメータではなく、教師データから推定される減衰長であることを確認。
- λ の推定値はタンパク質種・モード周波数に依存し、3–20 Å の範囲で安定した分布を示す。
1-4. JAK1 におけるアロステリック経路の特徴
- JAK1 の構造解析により、特定のヘリックスおよびループ領域がエネルギー伝達のハブとして機能する可能性を示唆。
- 経路解析により、薬剤結合部位と機能ドメイン間を結ぶ複数の経路が同定され、臨床で観察される薬剤反応性の差異と整合的な傾向が見られる。

2. 現在進行中の解析
2-1. λ の統計推定モデルの拡張
- 複数タンパク質・複数モードを対象に教師データを拡充し、
- 線形回帰
- ベイズ推定
- 変分推論
を比較し、λ の推定精度を向上させている。
- λ の分布がモード周波数に依存する可能性を検証中。
2-2. 経路分布の安定性解析
- 最短経路だけでなく、準最短経路の集合を解析し、経路のロバスト性を評価。
- 経路の揺らぎが大きい領域は、アロステリック制御の“可変性”を示す可能性がある。
2-3. 溶媒露出度(SASA)と λ の関係
- 経路上の各セグメントの露出度を計算し、λ の推定値との相関を解析。
- 水和状態が経路減衰に与える影響をモデルに組み込む準備を進めている。
2-4. 他キナーゼへの一般化
- JAK1 以外の JAK ファミリー、さらに他のチロシンキナーゼにも適用し、
経路構造の保存性・多様性を比較中。
2-5. 臨床データとの統合
- 薬剤反応性、変異の位置、構造的影響を経路モデルと照合し、
構造と臨床現象を結びつける統合モデルを構築中。
3. 今後の展望
3-1. λ の周波数依存性のモデル化
- 高周波モードと低周波モードで異なる減衰特性を持つ可能性が高く、
モード依存 λ(ω) の導入を検討。
3-2. MD シミュレーションとの比較検証
- 経路モデルと MD のエネルギーフロー解析(e.g., VET, NMA)を比較し、
外部データによる妥当性検証を行う予定。
3-3. 経路解析 pipeline の自動化
- 複数タンパク質を高速に解析できる pipeline を構築し、
大規模スクリーニングを可能にする。
3-4. 臨床応用への橋渡し
- 変異が経路に与える影響を定量化し、
薬剤反応性の予測モデルへの応用を目指す。
3-5. 論文化に向けた整理
- 解析結果をまとめ、学術誌への投稿を視野に入れた原稿作成を進める。
2026年1月24日 | カテゴリー:論文/講義/発表用 |




